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カウンタ

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2015/05/06

東日本大震災復興支援絵本三部作

| by:ts
 「家読は、絵本を家族みんなで声に出して読むことだけでいいのです」と機会あるごとに私は語りかけてきた。全国の学校に普及した「朝の読書」の時間、学校の先生方にも「朝の読書では、先生方はできるだけ絵本を読んでください」とお願いをしてきた。それは「絵本」は人と人とのコミュニケーションづくりと、人が生きていくための大切なテーマ(愛・勇気・夢・命・自然・友だち・家族そして生きることの意味と死について)すべてが織り紡がれているということ。だから幼いころに絵本を読んで育った子どもたちは、大人になってもみずみずしい感性を備えつけ、人生を前向きで創造的な考え方で送っていると言ってもいいのかもしれない。要するに子どもの頃に絵本のある環境で育ったか否かということは、その人の人間性を理解するうえでいみのあることなのだ。

 私は「家読」の方法を語るに難しい読書論はしないことにしている。近年は数多くある絵本の分野から、「命」の大切さをテーマにした3作品を持ち歩いては紹介している。

 一冊目は『ハナミズキのみち』(文・淺沼ミキ子/絵・黒井健/金の星社)。2011年3月11日、陸前高田市で東日本大震災で、市役所の臨時職員として市民の避難誘導に任務していた25歳の息子さん健(たける)さんが津波にのまれた。健さんと再会したのは十日後の遺体安置所であった。毎日泣いて暮らしていた母親(ミキ子さん)に健さんの声が聴こえてきた。「おかあさん・・・もう泣かないで。楽しかったことを思いだしてわらっていてね。ぼくは、ここから見ているからね。おかあさん、おねがい。ぼくが大すきだったハナミズキの木をたくさんうえてね。津波が来たときみんながあんぜんなところへにげる目印じるしに。ハナミズキのみちをつくってね。(中略)ぼくは木になったり花になってみんなをまもっていきたいんだ」。淺沼さんは健さんのメッセージを後世に伝えるための活動に取り組んでおられる。

 2冊目は『かぜのでんわ』(作絵・いもとようこ/金の星社)。岩手県大槌町のガーデンデザイナー佐々木格さんの自宅の庭に「風の電話ボックス」がある。東日本大震災で家族や友人や大切な人を亡くされた方々が毎日この電話ボッツクスにやってくる。電話はボックスの中にあるだけでつながってはいないけれども、「もう、あえなくなったひとに、じぶんのおもいをつたえると、かならずそのひとにとどく・・・」といわれている。絵本作家いもとようこさんはこの事実をもとに動物に擬人化させてつらい思いを電話に託す。
 ある日、うさぎのおかあさんが、電話ボックスにやってきて、「もしもし、ぼうや。げんきにしてる? いいこにしてる? いつものように『ただいま─』って、かえってきて! そして『おかあさーん』って、よんでちょうだい! いつものように・・・いつものように・・・いつものように・・・いつものように、こもりうたをうたうね!」といもとさんは電話にこめられた想いを絵本で物語る。

 そして3冊目は陸前高田市の”奇跡の一本松”と言われた松の木がなぜ生き残ったのか?
作家・作詞作曲家で「千の風になって」の作者新井満さんが物語で解き明かし、「もののけ姫」や「時をかける少女」等多くの美術監督を手掛けられた山本二三さんの絵になるDVD付き絵本『希望の木』が、5月11日に東京法令出版から発売になる。
 陸前高田市にあった高田松原には7万本もの松の木があったが、2011年3月11日の巨大津波で松林が全滅し、1本の松だけが奇跡的に残った。なぜ、その1本だけが助かったのか?
「もし、その1本松を人間にたとえたとしら・・・」。1本松を8歳ぐらいの少女に擬人化させてそのなぞ解きに芥川賞作家新井満さんが物語を展開する。大津波で失われた魂の希望と心のささえが希望の木に託される「希望と再生」がテーマの絵本である。

 この絵本の制作者たちは、「希望の木」を家族で、あるいは学校や地域で大勢の人たちに見て、読んでもらいたいという形式が、読み語りが可能な絵本映像版DVDが付いている。
 震災前の平和な光景の陸前高田市の町。そしてあの日の出来事。復興に取り組む人々の生き方なども紹介されながら絵本「希望の木」のページがめくられる。

 私の「家読」用絵本紹介で「ハナミズキのみち」と「かぜのでんわ」に、新しい震災復興支援絵本「希望の木」が加わった。この3冊の絵本は読書のすすめを超えて、「こころを伝える絵本」としての存在が強い。私は自分勝手にこの3冊の絵本を、東日本大震災心の復興支援3部作と位置付けている。ぜひ、全国のご家庭でもこの3冊の絵本を子どもたちと一緒に読み語っていただきたい。



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