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子ども司書制度の誕生
子ども司書推進プロジェクト顧問 高信由美子


<町に図書館ができる>                           
矢祭町は、福島県の最南端に位置する人口6400人の小さな町である。高齢化率は、31%と進み、町のキャッチフレーズは、「元気な子どもの声が聞こえる町」を掲げているが、人口減少に歯止めがかからない。
2001年「合併しない宣言」をしてから、自立の町づくりを模索していた町には、図書館建設どころではなかったが、徹底的な行財政改革を実施し、当時の町長の英断で、次の世代に生きる子どもに矢祭の未来を託そうと図書館建設に着手した。


<寄贈本で作りあげた図書館> 
築40年の武道館を改築して図書館建設が始まったが、建物の予算は、1億円、図書購入費は、300万円、これだけでは十分な図書は購入できないと考えた私は、当時役場の行財政改革チームリーダーだったため、福島市で開催された「日本一のふるさとを創る会」に参加し、矢祭町の図書館づくりの夢を話した。
たまたまその場に居合わせた毎日新聞社福島支局長が賛同し、記事として新聞に掲載してくれたのが、全国からの寄贈本の始まりである。
全国からの寄贈本は、約45万冊に及んだ。それからというもの、町民ボランティアが立ち上がり、図書の整理から分類とわずか半年で作業を終え、2007年1月に「矢祭もったいない図書館」をオープンさせた。


<財政効率化と図書館>
その半年後に私は、教育長に就任したが、何よりも嬉しかったのは、私の勤務する教育委員会ともったいない図書館が廊下一つでつながっていることであった。毎日図書館に通ってくる元気な子どもの姿を見るたびに、町に図書館ができるということは、こんなに素晴らしいことなのだと実感した。
しかし、財源の乏しい小さな町が、まちづくりの一つに「読書」を掲げるということは、容易なことではない。念願だった図書館がオープンしてまだ2年目だというのに、町内には、読書で町が活性化するのか、企業誘致に取り組んで働く場所を確保するのが先ではないか等という意見も出てくる。
全国には、市立図書館を民間の書店に委託した自治体もあるが、町の財政運営を効率化優先にすると、すぐには結果の出ない図書館が標的になってしまう。子どもたちのために全国からの寄贈本で作り上げた図書館が、このままでは、図書を貸し出すだけの図書館になってしまうのではないか。もっと子どもが図書館に関われる方法は、ないものだろうかとのあせりから、私は、途方に暮れていた。


<子ども読書の街づくり事業から誕生した「子ども司書制度」>
子ども読書の街づくり事業という文部科学省の事業があることを知ったのは、1本の電話であった。矢祭町出身で東京の出版業界に勤務していた経歴を持ち、1995年に「朝の読書」運動を立ち上げ、現在は、家読推進プロジェクト代表の佐川二亮氏からであった。
それから応募するための企画書づくりが始まった。
子ども読書の街づくり事業は、すべて子どものためを考えて作成しようと町内の小学校長宍戸仙介氏と佐川二亮氏が企画案づくりに携わってくれた。その中で考え出されたのが、「子ども司書制度」である。
子ども司書は、友達や学校、家庭や地域で読書の楽しさを伝えるリーダーになってもらうことを目的にしたが、私は、子どもたちが、自分の力で育っていくのを「子ども司書制度」で手伝おうとしただけであり、全国初の子ども司書制度を立ち上げてみたものの不安も残っていた。
しかし、佐川氏から「子ども司書制度は、必ず全国に波及する。朝の読書運動もたった3人で立ち上げたのだから、自信を持っていい。」と言われたことが私の背中を押した。
こうして、矢祭発「子ども司書制度」は、文部科学省が企画競争公募する「子ども読書の街づくり事業」から誕生した。


<子ども司書講座のスタート>
2009年6月、矢祭子ども読書の街づくり事業の大きな柱の一つに「子ども司書制度」を掲げ、スタートした。
第1回子ども司書講座開講式には、全国初というものめずらしさも手伝って、多くのマスコミが集まり、新聞や地方テレビのニュースとしても放映された。
第1回の受講生は、4年生から6年生までの14人、子ども司書制度は、法律に基づく司書の資格を取得することではないが、日本十進分類法や図書の検索、受け付け、登録、貸し出しや返却等を学ぶ。本が好きで読書に興味・関心が高い子どもたちを中心に司書についてのノウハウを習得し、友達や家族に読書の素晴らしさや大切さを伝えるリーダーとなることを目指している。
子ども司書に認定された子どもたちは、地域の図書館で読み語りのボランティアを行ったり、学校図書館では、図書委員のリーダーとして活動したり、本の整理・分類なども行う。


<柳田邦男先生が応援団長>
子ども読書の街づくり応援団長を引き受けて下さった作家の柳田邦男先生からは、第1回の開講式に「本は、人生の教師であり、友達でもあります。子どもの頃に本が好きになり、読書の習慣が身に着くとそれは、生涯心の財産になります。矢祭町には、全国の支援者が寄贈してくださった45万冊もの本をそろえた矢祭もったいない図書館があります。心の財産づくりをするには、素晴らしい町です。山沿いの小さな町では、全国初めての取り組みです。子どもも大人も子ども司書の活動でいっそう読書好きになっていくでしょう」とメッセージが寄せられた。
その後、毎年柳田邦男先生から受講生へ励ましのメッセージが寄せられている。
矢祭で始まった子ども司書制度は、急速に全国各地に普及している。子どもを取り巻く環境に危機感を持たずにはいられないと静かに立ち上がった自治体や図書館が増えている。